蹴りたい背中(綿矢りさ)

芥川賞受賞二作が掲載された文藝春秋を購入したので簡単な読書感想を。
読み物は書き始めこそがキモとされている。そのためか、冒頭から滲み出る作者の強い気負いに当てられ、読み始めから出鼻を挫かれることがある。この小説からもそういった印象が。冒頭以降は引っかかりなく読み進むことができた。
読むに先立つ情報として、芥川賞の選考に関する批判や、人生経験が圧倒的に不足した若者が作者であること。悪い材料ばかりが目につき期待はしていなかったが、実際に読んでみると予想に反して良く出来たものだった。ただ、少しでも鬱屈した人間関係を経験することなく過ごしてきた人々にとって、受け入れられるかは疑問。そういった感受性(共感するかしないか)に最終的に行き着く作品郡を総じて「文学」というのだと勝手に思っている。この作品に関しては、共感をすくい取る網目が少々粗すぎるように感じられた。それがこの作品に与えられた「世界が狭い」という評価の一要因なのかもしれない。