僕と彼女と彼女の生きる道 第九話

ベタな展開になってきた。それはともかく、今回露となった徹朗の迷いは自然なことだった。むしろそんな徹朗を叱責するような態度をとるゆらに違和感を感じる。社会の中で暮らしていくためには最低限社会の規則にしたがう必要がある。無理に自分の理想を押し通しても詮無きことだ。現実の中で理想との折り合いをつけていく。それが社会の中で生きるということ。それが嫌なら世捨て人になるしかない。自分らしく生きる(家庭・個人の尊重)という信念に文句はない。ただ徹朗を見ていると理想にそぐわない社会に託けて、凛の親権よりも自らの信念を優先しているようにしか思えない。
父親と言い争う場面からも、徹朗の信念は家族愛から既に離れ、更に上位の何かへと移行しているように思える。上位の何かを貫くためには、凛を蔑ろにすることもやむを得ないのだ。仕事の条件にこだわる余り、凛の親権を失いかけている徹朗を見ているとそう思ってしまう。本末転倒も甚だしい。真に大切なことは子供と過ごす時間といった物理的なものではなく、子供との絆という精神的なものではないのか。ゆらの説く人生観にかぶれすぎて、徹朗は正常な判断力を失っているのではないかと思う。
(離婚したとはいえ)親子関係の重要視と矛盾する徹朗への好意といい、ゆらの中での理想と現実の整合性はどうなっているのか疑問。今のところ、空虚な理想論を生きているようにしか思えない。非の打ち所のない人物設定と理想に生きるその姿勢はどこか非現実的(徹朗に人間らしさを取り戻すために現れたハーモニカの精とか?)。宗教的とも。
どうにも手広くやり過ぎているのだと思う。前作「僕の生きる道」では主人公の心情を中心に精々半径数メートル以内のところで物語が綴られた。今作は家庭に仕事、プライド、社会とテーマを広げた意欲作なのだろう。物語の雰囲気と丁寧な作りには好感が持てるので、もう少し様子を見たいと思う。