仔犬のワルツ 第ニ話

優しくされるのが怖いという葉音。いつの日か心変わりした芯也に追い出されるのではないかとの思いがよぎり不安になるのだという。この心情吐露は近く訪れるであろう志賀知樹の裏切りに呼応しているような気がしてどんよりさせる。頭では他人を信用しては碌なことにならないとわかっていても、「かわいい」と女心を刺激する甘言に有頂天。心を開きかけてしまう。一時の幸せという名の高台に乗せられた葉音。後は酷い現実へと突き落とされるだけ。位置エネルギーも十分なので衝撃も大きそうだ。観るに耐えない顛末が待っているような気がする。今から心構えしておいたほうがよさそうだ。
「現在の幸せ」よりも「将来の不幸」を過剰に意識してしまうあたり、葉音はよほど報われない境遇に育ったのだろう。その後ろ向きの心理はいじらしさを通り越して痛々しい。人の厚意を素直に受け入れることが出来ず、手に入れた幸せが大きければ大きいほどに、失ったときに押し寄せるであろう悲しみへの不安ばかりが思考を妄想狂的に支配する。やがてその不安に耐えられくなり自ら幸福を手放すことになる。それはまるで抜け道のない不幸の閉鎖回路。裏切られ傷つくことを避けようとする防衛本能が更なる不幸に引きずり込むというか。抜け出す手段は唯一前向きに信じる心なのだろうが、それが志賀知樹によって無残に踏みにじられるのではないかと。
今回の内容は主に水無月譜三彦とそのパートナーの紹介だった。芸術の才能がないために両親から愛情を注がれることがなかった譜三彦。父親に対する復讐と母親から愛情を得たいという思いが遺産相続争いに参加した理由。満たされない欲求は、無鉄砲な行動やギャンブルによって埋めていた(誤魔化していた)ようだ。借金取りに頭を下げる譜三彦にパートナー宝生光は自分の父親の姿を重ね合わせる。
「譜三彦−宝生」の場合に限らず、水無月兄弟とそのパートナーとの間には共通項がありそうだ。それはゆくゆく明らかになっていくのだろう。肝心の「芯也−葉音」はお互い孤児院出身という不幸な生い立ちで、叶わない希望は抱かないという達観にも似た後ろ向きの人生観を持つ(芯也は今のところ遺産相続争いに加わることを否定している)。遺産相続争いという設定上、葉音の成功は芯也の世俗的な成功にも繋がるが、やはり主軸は互いに触発されることによって前向きな希望を取り戻していくことに、普通はあると思うがどうなのだろう。
殆どの登場人物は(それがたとえ歪んだ形であったとしても)自らが目指すものに愚直なまでに前向きに生きている。一人諦め顔で人生をただ浪費しているようにも見える芯也。まるで彼だけが別世界を生きているようであまり良い印象は抱かない。苦労の度合いを測る尺度をそれを受けた者の主観に定めたりする変わり者。その理屈では苦労者は精神や意志が薄弱な者ばかりになってしまいそうだ。