仔犬のワルツ 第三話

水無月兄弟たちの駆け引きが本格的に。虚実入り混じった腹の探り合いが繰り広げられ、これまで以上に水無月兄弟たちの言動をそのまま鵜呑みにすることが出来なくなったように思う。大雑把な人物像は示されたものの、胸の内まで全て明かされたわけではないので、駆け引きの裏にある(人間ドラマとしての)機微は少々読み取り難いかも。ピアノ試験の不正に加担した人物が襲われる事件が起きる。芯也が犯人であるかのような描写が幾度か見られたが、いかにも過ぎて信じ難い。駆け引きと犯人探し。サスペンスドラマのような展開に。
熱心にピアノ試験に取り組む葉音。それを目にし、彼女は生まれて初めて人と対等以上に争えるものを見つけたのだ、自信の芽生えだ、などと懲りずに勝手で失礼なことをほざき、今回も天然の素質を見せつける芯也(自分のために骨を折ってくれているという意識なし)。葉音は「ピアノを弾いて欲しい」という芯也の望みに純粋に応えようとしただけ。本人は憶えていないかもしれないが、まだ幼い葉音におもちゃのピアノを与えてくれたのは芯也だった。芯也のピアノ演奏を録音したテープで曲を憶えたこと、遺産相続争いに巻き込んだことも含め、図らずとも現在・過去を通じて、芯也は葉音にピアノという人生の指針を与え続けたということに。葉音にとってピアノを弾くという行為は、芯也に対する好意(恋?)と切り離すことの出来ない関係にあるようだ。
芯也はそこに自己の理想像を映しこんでいるのか、葉音の行動心理にそれらしい理由を付けて(買い被って?)満足する傾向がある。しかし真相は芯也が想像するような格調高いものではなく、良くも悪くも現実に即した低俗なもの。それを葉音の口から明かされ愕然、というのがお決まりの展開か。勝手に勘違いして勝手に驚くマッチポンプでしかないが、自分の価値観を他人へと押し付ける芯也の困った性格を強調しているのだとすれば、不正を行った相手への過剰な正義感の押し付けという殺人動機と結びつける演出だったりするのかも。
今回は水無月唱吾とそのパートナー(歌乃)の紹介が中心だった。母親の愛情に飢えているところは水無月譜三彦同様。学長と成って母親と二人きりで暮らす(母親を独占?)ことが唱吾の望み(と自己申告)。一方、歌乃の手癖の悪さは父親から仕込まれたもの。生活のため、父親の喜ぶ顔が見たい一心で犯罪に手を染めていたが、歌乃が補導されると父親は容赦なく手のひらを返した。全ての罪を娘の所為にして保身に走った。歌乃がスリをやめられないないのは、裏切られた憎しみを指が忘れないから。本心では父親とではなく今は亡き母親と暮らしたかったとも。母親の愛情を得られなかった者同士の共感から唱吾への協力を約束するが、叶うことのなかった自らの思いを唱吾に仮託しているとも思える。