仔犬のワルツ 第六話

連続殺人の魔の手は東都音楽大学側の主要メンバーにまで及び、(元)学長秘書の輪島舞子が殺害される。ピアノ試験でも、主要メンバーの一人、志賀和樹がレースから脱落し、第六回にしてやっとドラマが動き始めたように思う。今回から水無月千世の妹、由貴も相続争いに参戦することに。由貴の実の娘でパートナーの幸子は、マスクを被った、見るからに怪しげな人物。
前回で水無月兄弟とそのパートナーの紹介も一巡。今回は東都音楽大学教授・志賀華子のパートナーで息子でもある和樹にスポットライトが。
 本来であれば、水無月家の身内だけで行われるはずであった相続争い。志賀親子(ペア)がピアノ試験に参戦することを許されたのは志賀華子の一計によるもの。特待生だけに与えられる優遇制度を知って不満を募らせていた東都音楽学校一般生徒たち。華子はその心理を上手く利用し、自分たちにもチャンスを与えてくれと大学側に直談判するように仕向けた。そこに和樹を潜り込ませた。
志賀華子はなかなかの策士で、試験官への袖の下をはじめとするあらゆる小細工を弄して和樹を勝ち進める。試験が終盤に差し掛かり、もはや下手な小細工や誤魔化しが通用しなくなったと見るや否や(脅迫まがいの手口で金をせしめた方が割いいと判断したのかもしれないが)、あっさり相続争いから手を引く引き際の良さも見せる。
 納得がいかないのは和樹で、曲りなりもここまで勝ち進んできたという自負(←勘違い)と、自分の才能への淡い期待から抗議をせずにはいられない。しかし”夢物語よりも現実を見ろ”、と華子にさらりと言ってのけられる。その上、将来は一流ピアニストになりたいという自分の夢までも否定され、和樹のプライドはズタズタ。危い精神状態へ。
 和樹にピアノ試験を勝ち抜くだけの力量がないことは、現時点では疑いようのない事実だと思われる。しかしもっと根本的な部分で、華子は息子のピアノの実力や熱意といったものに関心がないようだ。息子の人格は蔑ろに、もっぱら自分の虚栄心や金銭欲を満たすために利用しているようにみえる。
新登場のマスクマン(ウーマン)幸子。『犬神家の一族』の佐清(すけきよ)を彷彿させるマスクによって、一見、ただの色物キャラにも見えるが、個人的には、結構重要な役割を担う人物だと思っている。(当たり前か)。由貴の説明台詞から明らかなのだが、幸子もまた葉音と同系統の特異性(天使性?)を持っていて、それが葉音同様、ピアノの才能に繋がっているように思う。
才能と結びつく反面、高すぎる感受性はわが身を傷つける諸刃の剣でもある。幸子はマスクを被る(他者の目を遮る)ことによって、葉音は盲目(自分の目を遮る)ことによって、「悪意の目」からわが身を守っている。外向的か内向的かの違いはあるが(ゴラムよろしく自分の内面と会話までする葉音の内向性たるや!)、外界からわが身を遮断しているという点では同じ。「悪意の目」からの遮断云々は、以前に、芯也が葉音に指摘していたこと。
兄弟それぞれに、過去に「鍵二」と名乗っていた(騙っていた)ことがありそうな展開に。とすると、「鍵二」とは個人名ではなく、水無月家で最も優秀なピアニストによって代々受け継がれる「称号」のようなものかと思ったりもした。入れ替わり可能という点では、幸子のマスクも同じことがいえる。生徒の中で最も優秀な人物によって受け継がれるとか。