ZOO(乙一)

書き下ろしの新作を含む短編集。よって粗筋は省略。


帯には「天才」の文字が踊る。筆者の噂は以前から耳に(目に)していたが、実際に本を手にとってみたことはなかった。率直に言って天才という評判に間違いないと実感。
ひとつのセンテンスに目を通しただけでも彼の才能の片鱗を感じとることが出来る。そこに記されていることがよどみなく頭の中に流れ込んでくる。根本的なところで文章の扱いに長けているのだと思う。語感やリズム、句読点の用い方など全ての用法に非凡なものを感じる。この辺のことは学んで出来ることとは思えない。作品の根底に流れる表面的で形ばかりではない、静かで奥行きのある狂気もよい。これ程までに文章に惹きつけられたのは久しぶりだと思う。
妙に余力を感じさせるものがある。無理にあれこれ詰め込もうとせずにシンプルな内容を平易な語彙で綴っている。本当にわかっている人があえて難解な表現を用いずに、内容伝達に重きを置いている。そうみるのは買いかぶりすぎかな。何にしても力量以上に自らを大きく見せようとしていないと思えるところに好感が持てる(←何様な分析)。表現技法に凝るあまり肝心の内容伝達を疎かにしていたりする作品とは対極を成すものだと思う。まあ短編なので詰め込もうにも詰め込むことが出来なかったとも言えるが。その辺は筆者の長編小説も読んでから判断してみたい。