愛情イッポン! 最終話

あれだけ周囲を巻き込んでようやく出場に取り付けた夏八木道場最後の試合も、健闘は見せたものの結果としては一回戦敗退に終わる。予想通りの展開ではあるのだけど、今改めて本ドラマが貫き通してきたものを実力主義成果主義といった観点から眺めてみた場合、夢も希望もあったものではないなあと頭を抱えたくなる。努力や根性、そして熱意といったものを総動員したとしても何一つ成し遂げることが出来ないなんてちょっと悲しすぎやしないか。家計を顧みることなく門下生からただ同然の月謝しか取らない父親や、いつまでも一攫千金の夢みて定職にも就かずに宝探しの真似事ばかりしている叔父と、周りにいる大人はろくでなしばかりだし。十人中九人くらいが人生の先行きに失望して正気を失いかねない。
まあそれはそれとして。中村雅俊山下真司といった熱血スポ根ドラマの代名詞とでもいうべき役者たちがわざとらしく起用され、そして彼らのスポ根一直線な性格が短所となるような役所を与えられているところからも、本ドラマが「スポ根ドラマ」の外見を装いつつもその実、それとは異なる価値観によって形作られていることがわかる。その価値観とは「絆」。具体的には仲間意識や信頼関係といったものになるのだろうけど、それらを強調するには「勝利」や「成功」といった輝かしいものは邪魔なんだろうね。「勝利」や「成功」はそれ自体が価値を持つものだから。要するに、金持ちになったら急に友達が増えた、みたいな現象が起きてしまう。それでは本当の「絆」は見えてこない。「敗北」や「失敗」にまみれてこそ嘘偽りのない関係が否応なく見えてくると。挫折歓迎、駄目人間大歓迎ということになる。


表面上は従来型のスポ根ドラマの方法論を装いつつも(「勝利」や「成功」に結びつくことのない)「敗北」や「失敗」をキーワードに、真の「絆」のあり方を掘り下げるというアプローチの仕方はとても画期的。これは広義の意味で「愛」の意味を問うているのではないかと深読みもしたくなる。何にしても、従来型スポ根ドラマのアンチテーゼとして位置づけられる作品なのだと思う。最後まで軽いタッチで描き通したことにも好感が持てる。決して押し付けがましくない。難しく考えなくともドラマを楽しむことが出来るって大切なことだと思う。


余談というか弁明かもしれないが、ある作品の位置づけがアンチテーゼであるのかオマージュであるのか、はたまたハロディであるのかといった見極めにはその分野における体系的な知識が必須となる。ドラマについての体系的な知識が殆どない僕は自分の主張に自信などあるはずがないのでもし認識などに誤りがあれば是非とも指摘して頂たいと思う。本作のような方向性を持つドラマが以前にも実は存在していたとかも。お気軽にどうぞ。