松本人志プロデュース・絶対に笑ってはいけない一泊二日の旅

年末に放映されていた『ガキの使いSP』。浜田チームの三人(ダウンタウン浜田・ココリコ田中・山崎)は一泊二日の温泉旅行へ連行される。これは罰ゲームなので、道中の至る所で待ち受ける笑いの誘惑に耐えなければいけない。笑うと容赦なく鞭で尻を打たれてしまう。


何をやっても面白い状況は確実にある。葬式などがそれで、厳粛な空気が醸し出す緊張感が些細なきっかけで裏返り、箸が転げても可笑しく感じるようになる。この番組では「笑う→尻打ちの刑」とすることで同質の緊張感を作り上げている。尻打ちの恐怖に怯える浜田チーム三人の姿は、言葉よりも饒舌に「笑うこと」がタブーであると視聴者の感覚へ訴えてくる。その空気だけで既に半笑いになる。
おかげで何が出てきても大爆笑。たとえばスターウォーズのテーマと共に番組スタッフが(ぎりぎりそれとわかる程度のチープさで)C-3POR2-D2に扮して登場する場面があった。そんな内輪ネタにも思わず笑ってしまうのだが、何よりも笑いを堪えている浜田の姿が面白くてしょうがない。結局堪えきれず笑い出し、尻を打たれる浜田の哀れな姿に僕も大爆笑。番組が終わるまで笑い続けだった。


ここで繰り広げられるギャグやコントの大半は、はっきり言ってくだらない。だが、くだらないのに何故か笑えてしまう。繰り返しになるが、それはひとえに「笑うこと=タブー」とする状況設定の妙にあると感じた。話術やコントの筋立てといった表面的な部分に重きを置く作品ではなく、「如何に笑いを誘発し易い状況を作り上げるか」という土台部分に重きを置く作品なのだろう。つまりこれは、笑いを堪える浜田チームの姿までも「込み」としたシチュエーションコメディであるといえる。「笑ってはいけない」とする突拍子もない制約も、罰ゲームとすることですんなりと受け入れることが出来るわけで。一見すると無作為で成り行き任せのドキュメントに見えるが、よく目を凝らせば入念に作り込まれた痕跡を見出すことが出来る。
筋立てや技法を重視する「笑い」はときに理が勝ち過ぎ、感覚的な「笑い」に結びつかない場合がある。しかし状況作りを重視する「笑い」は端から人間の根源的な部分に訴えかけている。最もわかり易く最も共感し易い。もちろんそこに至るまで数多くの試行錯誤を経ていることは疑いようがないが、視聴者はそこに少しも思いを馳せることなく気軽に楽しむことが出来る。観る者の「笑い」の素養を問うことなく、誰でも無条件で楽しむことが出来るという意味において、この『ガキの使いSP』は間違いなく最高峰に位置付けされるお笑い作品であると思う。

余談

この作品を成立させるにあたり、状況作りの要である緊張感の維持が難点となるが、さすがに一泊二日の長丁場では難しかったようで、途中浜田チーム同士で笑わせ合う場面が観られた。尻打ちの恐怖に慣れたのか芸人としての血が騒いだのか単なる仲間割れなのか、とにかく趣旨があやふやになった瞬間。主に山崎邦正が足を引っ張っていた。『ガキの使い』本放送においても彼の存在は常にジョーカーであるように思うがどうなのだろう。